solon’s blog

英日日英、中日日中の翻訳業。外国語トレーニングを中心に書いています。

怪しいタイ語翻訳者

職業がら翻訳者のスキルに疑問を持つケースは多々ある。
ヨーロッパ言語と中国語は、スキルがないことは瞬時でわかる。



それは、該当言語の読解力があるからだ。
ネットのおかげで、読解力さえあれば、該当言語のホームページを検索して確かめることもできる。


アジア言語、とくにタイ語はいままで翻訳者にたよるしかなかった。


ところが、先日、あまりにもおかしなタイ語→日本語翻訳があり、客先から誤訳ではないかと指摘を受けた。
文脈からいって、翻訳のとおりにはならないというのだ。


「取り調べを受けた」と翻訳して納品したが、文脈からいうと、「取り調べをした」としかとれない。


あわてて作業した翻訳者に問い合わせ、ネイティブのタイ人翻訳者2名と日本人タイ語翻訳者に問い合わせた。
作業者をのぞく全員が、この場合は「取り調べした」という意味だと確認した。
ところが、作業者だけは「取り調べを受けた」といいはる。


そこで、つたないタイ語学習能力をいかして、調べてみた。
その結果、次のことがわかった。


(1)「受けた」という受動態をつかうケースはタイ語ではまずない。そもそもタイ語には受動態をつかう習慣がない。
(2)受動態をつかう場合、動詞ถูก(またはโดน)をつかうが、本文中にはそんな文字列はない。
(3)タイ語は中国語と同じく、語順で主語述語が決まる。もし受け身的な意味をあらわすとしたら、取り調べた主体「Xが」「Aを」「取り調べる」という語順になるはず。この文では「Xが」にあたる単語がない。
「A」「取り調べる」という語順である。
(4)タイ語には過去形がない。
(5)この文では、「A」「すでに」「取り調べる」という語順で単語が並んでいる。
(6)以上から、考えると、「Aは」「すでに」「取り調べした」という意味で解釈するのが正しい。


推理と調査で、このタイ語翻訳者さんは信用できないことがわかった。
残念ながら、今後の依頼は難しいだろう。
少しずつでも、作業者のスキルを精査して、お客様にご迷惑をかけないようにしなければと、決意しました。