うとうと、とろりの読書
旅行から帰ってきました。
随筆家吉田健一の『酒肴酒』(光文社文庫)を旅行中に読んだ。
酒と美食を語り尽くしたこの本を、飛行機や電車のなかでうとうとしながら読むのは、言葉で表現しがたい体験だ。
内田百輭(輭は門構えに月)と似ていて、朦朧と夢落ちになるのがいい。
たとえば、「海坊主」という短編がある。これは「バー・レモンハート」で紹介されたエピソードだが、吉田健一の筆は漫画の世界をはるかに越えている。
これを読むだけでも、『酒肴酒』を買った値打ちはある。
ところで、本題とはまるで関係ないことだが、山形県の酒田市で名酒「初孫」を飲んだと書いている。
『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎、講談社文庫)を読んでいれば、おもわずにこりとしてしまう。
残念ながら、この「日本一のフランス料理店」を堪能する機会は吉田健一に訪れなかった。
すこし残念だ。店の全盛期は開高健と丸谷才一の時代だから無理もないのだが。